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「5年間先輩の家を渡り歩いていました」ドラゴンクエストプロデューサーの一人暮らし時代の話

小ネタ 2018/3/16
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今は多方面で活躍している人にも、きっと下積み時代がある。飢えをどうにか凌いで暮らしていた人もいれば、狭い部屋で寝に帰るだけの暮らしをしていた人もいる。
本企画は、現在第一線で活躍している人たちの「一人暮らし時代」にフォーカスを当てて、当時の苦労話などをお聞きします。

今回は、現スクウェア・エニックス執行役員で、4月より取締役 兼 執行役員になる、国民的人気ゲームソフト「ドラゴンクエスト」のプロデューサーを務める齊藤陽介さんに話を伺いました。
齊藤さん顔
齊藤陽介(さいとう・ようすけ)さん
1970年生まれ。スクウェア・エニックス執行役員。『ドラゴンクエストX オンライン』や『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』、『ニーア オートマタ』のプロデューサーを務める。ニコニコ生放送『ドラゴンクエストX TV』にも出演し、「出たがりおじさん」の愛称で親しまれている。趣味は「人狼ゲーム」。ニコニコ生放送の人狼放送チャンネル『アルティメット人狼』及びイベントにもスクウェア・エニックス代表としてたびたび出演している。

部屋では一人で寝転がって天井を眺めていたい

齊藤さん顔
――この企画では、現在多方面で活躍されている方の、初めての一人暮らし経験についてお伺いしたいと思っています。インタビューというと、持論だったり、成功談だったり、カッコいいエピソードで展開していくことが多いですが、今回は親しみやすいお話をお伺いできればと。

齊藤陽介さん(以下、齊藤):親しみやすい話なのかどうかはわからないですが、私は一人暮らしを始めたのが27歳の頃で、それまでは先輩の家を渡り歩く生活をしていたんですよね。

――ええっ!

齊藤:実家が横浜で、会社(当時エニックス)が歌舞伎町の近くにあって、通えなくはないけど遠かったんですよ。それで、家に帰るのが面倒くさくて、会社の先輩の家に転がり込んで……。東中野の3LDKの部屋をシェアして住んでいた先輩がいて、その居間で寝泊まりしていました。

――27歳で一人暮らしを始めたということは、入社してから5年くらい居候生活を?

齊藤:そうです。まあ、さすがにそれをずっと続けるのもまずいと思って、一人暮らしを始めることになるわけですが(笑)

――その生活を5年続けたのは、結構引っ張りましたね(笑)
齊藤さん顔
齊藤:それで、会社が初台に引っ越したので、そこに通いやすい西永福の6万3000円の部屋を借りました。条件は家賃と、駅から300歩以内の駅近物件という2点だけで、収納もない部屋でした。部屋を探す上でひとつ良かったのは、居候生活をしていたことで、住まいに対して贅沢な条件が自分の中にあまりなかったことですね。

――ミニマムな暮らしに慣れていたんですね。

齊藤:デスクも持っていなかったし、今みたいに小型のノートパソコンもなかったから、デスクトップパソコンも床にじか置きで。決して快適な環境ではないものの、自分一人だけになれる空間を得たのは大きかったです。部屋で一人寝転がって天井を眺めているのとか、好きなんですよ。仕事柄よく飲みにも行きますし、みんなでワイワイしているイメージがあるのか、誰にも信じてもらえないんですが(笑)

――こうしてお話していても、陽気なイメージしか想像がつかないです。

齊藤:家では完全に電池切れしています。プロデューサーは人と話すのが仕事なので、その反動なのかもしれません。

――ちなみに一週間に仕事で話す人数って、どれくらいになりますか?

齊藤:スタッフ含めると、多い時は一週間にのべ100人以上と話していると思います。 ちなみに、酒好きだと思われて仕事関係の方からお酒もたくさんいただくのですが、実は家では一滴も飲まないんです。人を呼んだら飲むんでしょうけれど、家が荒れ放題でルンバが途中で動きを止めてしまう状態なので……。

――家事代行サービスとかは利用されないのですか?

齊藤:いやぁ……だってそれ、人と話さなきゃならないじゃないですか。

――そこまで徹底して話したくないんですね(笑)

齊藤:オンオフの切り替えを明確にするタイプなんです。仕事スイッチがオンになっているときは、人と話すのが楽しいのですが、オフになっていると誰にも話しかけられたくなくて。だから今は服もネット通販で、外では買いません。店員さんが話しかけてくるのが嫌だから。外で買うのはジーパンだけですね。裾直しをしなければならないから仕方なく……。


ドラゴンクエストプロデューサーが一番すきな「ドラゴンクエスト」

齊藤さん顔
――家に一人でいるときは昔から何をされることが多かったのでしょうか?

齊藤:やっぱりゲームが多いですね。西永福の家では、デスクトップの大きなモニターを床において、寝転がりながらオンラインゲームをやっていました。もちろん「ドラゴンクエスト」も好きでした。

――ちなみにシリーズでは何が一番お好きですか?

齊藤:一番はぶっちぎりで『ドラゴンクエストII』です! 「サマルトリアの王子」、「ムーンブルクの王女」と3人でパーティーを組むのですが、最初から3人で冒険するわけではなく、物語の中でだんだん旅の仲間が増えていくという演出が新しくて、かなり衝撃を受けたのを覚えています。

――一人でスライムを倒す定番のシーンから始まり、パーティメンバーが三人になるとフィールド曲も変わるんですよね。

齊藤:あと、こちらが散々探し回ってようやく出会えた「サマルトリアの王子」に「いやーさがしましたよ。」と言われるのは今でも『ドラゴンクエストII』を代表するネタですね(笑)

――プロデューサーとしての印象的なエピソードはありますか?

齊藤:『ドラゴンクエストX』の完成発表会で、木村拓哉さんと登壇する機会がありました。それに向けてダイエットしようと思って、半年くらいはるさめスープだけを飲み続ける生活を送ったことがあります(笑)。

――ダイエットの理由がおもしろすぎます……(笑)

齊藤:結果、15キロくらい落としました。お腹が空いたときはスープの味が薄くなってもお湯をなみなみ入れてカサ増ししたり、ゆで玉子を食べたりしていました。

――「ドラゴンクエストXのプロデューサー」がそんな貧乏飯みたいな生活をしていたと思うとすごい(笑)


話題作は一通りやらないとスタッフと“同じワード”で話せない

齊藤さん顔
――今でも変わらずご自宅でゲームはされるのでしょうか?

齊藤:今は忙しくてゲームに割ける時間がずいぶん減ってしまいましたが、話題作は一通りやるようにしています。これは仕事のためでもあって、話題作はやっておかないと、スタッフと話すときに“同じワード”で会話ができないんです。「○○(作品名)みたいな方向性でどうですか?」などと聞かれても、その作品をやったことがないと良いとも悪いとも言えないので。

――『ドラゴンクエストX』や『ニーア オートマタ』など、ご自身で担当されている作品を家で遊ぶことはありますか?

齊藤:やりますよ! 普通にいちプレイヤーとして楽しんでいます。これってプロデューサーの仕事の良い部分でもあり、難しい部分でもあると思っていて、プロデューサーはディレクターと違って、一人のユーザー目線で作品をみることができるんですよ。
齊藤さん顔
――そもそも、プロデューサーとディレクターってどう違うのでしょう?

齊藤:プロデューサーは、ゲームの中身というより、ゲームを商品として考えたときの責任者。ディレクターは映画監督的な立場の人で、「ゲームの中身の面白さ」に関する責任者です。プロデューサーのほうがディレクターよりもユーザーに近い目線で見ることができる分、ディレクターの選択に対して、歯がゆくなることもあるんです。

――どんなときにそう思うのでしょうか?

齊藤:たとえば、ディレクターはA案にしようとしているけど、B案のほうがいいんじゃないかなぁ……と思うことはあります。でも、そこはディレクターが決めるべきことだから、あまり私が口を出し過ぎるのもよくありません。ディレクターから「A案とB案、どちらがいいと思いますか?」と聞かれたらもちろん知識を総動員して最適解を提示する必要はありますが、自分からアクティブに意見をしにいかないほうがいい。

――それは、ディレクターの士気を下げることに繋がるかもしれないから……?

齊藤:それもありますし、うちではプロデューサーがディレクターを任命する形が多いので、任命したことについて責任を持つべきというのもあります。そして、任命した以上は、クリエイトの部分は任せる。私はメディアなどで「ゲームクリエイター」として呼ばれることもありますが、厳密に言うとプロデューサーは、ゲームクリエイターではないんですよね。
齊藤さん顔
――ちなみに、齊藤さんはゲームクリエイター的なお仕事をされたことはありますか?

齊藤:若い頃はそういう仕事をすることもありました。といっても、当時は社内で作るわけではなく、ゲーム作りを専門に行う制作会社があって、そこに発注して一緒に作っていく、というやり方でした。イメージとしては、作家と担当編集者にも近いかもしれません。制作会社(作家)のほうの作業が間に合わなければ、担当である私(担当編集者)もゲームの中身を作ることになります。

――ご自分で手を動かすこともできなきゃいけないんですね。

齊藤:そんな中、ちょうど一人暮らしを始めたくらいの頃だったと思うのですが、ほぼ全部自分で作ったゲームが、某ゲーム雑誌の4人で点数をつけるレビューで「8点、7点、8点、7点」とかもう記憶も曖昧ですが、そんな感じの点数だったんです。

――10点満点のレビューとしてはまあまあいい点数、ですよね?

齊藤:悪くはないんですが、絶賛されているわけでもなくて。自分としても、手放しで素晴らしいと言えるものを作れたか、というと決してそうではなかった。そのとき、「ここが自分のクリエイターとしての限界だ」と思ったんです。自分よりも面白いゲームを作る人は絶対にいるから、そういう人を支える側に回って、作る人間じゃない場所で頑張ろう、と割り切った瞬間でした。そこから、ディレクター路線ではなく、自分はプロデューサー路線でいこう、と意識してやってきています。


不安な一人暮らし……頭をリセットする方法をたくさん持とう

齊藤さん顔
――最後に、これから一人暮らしをする新社会人に向けて何かありますか?

齊藤:まず、これは失敗談なのですが、初の一人暮らしで、ものを買う順番を間違えましたね。まず物干し竿を買って、洗濯機はあとでゆっくり選ぼうと思ってしばらく近所のコインランドリーを使っていたんです。でも、結局それに慣れた結果、洗濯機を買うのをやめてしまい、物干し竿だけがベランダに置かれていました。

――確かに、自分が本当に使うかどうかって、意外と生活してみないとわからないですよね。

齊藤:あと、お金がないけど凝った自炊が面倒な人にオススメなのが、レトルト味噌汁を使った料理です。レトルト味噌汁の味噌とかやくとご飯を一緒に炒めると、焼きおにぎりみたいな味になるのが気に入っていて、よく作っていました。

――そんな裏技が!
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齊藤:真面目なことも言っておくと、不慣れな社会人生活な上に初めての一人暮らしをするとなると、結構なストレスがたまると思います。そこで一番大事なのは、頭の中をリセットできるような趣味を持つことです。

――それこそ、ゲームなどでしょうか?

齊藤:そうですね。ゲームのほかにも、生き物を飼ったり、釣りをしたり色々やってきました。最近の私のオススメは、テーブルゲームの「人狼ゲーム」! 人って何をやっていても、頭のメモリに空きがあれば、どうしても片隅で仕事のことを考えてしまうんですよ。それが、人狼ゲームって本気でやるとめちゃくちゃ頭を使うので、仕事のことが頭に流れ込んでくる余裕が一切なくなります。これほどまでに集中する趣味もほかになかなかないですね。

――モヤモヤと考え事をしてしまう人にはちょうどいいかもしれませんね!

齊藤:一時的にでも頭をリセットできる武器を色々持つようにしてください。一人で暗い部屋の中で考えすぎても、答えなんて出ないですからね。

****************

齊藤さんのお話を聞いて、よくも悪くも一人暮らしとは「自分という人間を知る行為」なのだと改めて思いました。物干し竿だけ先に用意したのに、結局洗濯機は買わずじまいだった……なんて”一人暮らしあるある”なのではないでしょうか。人は、自分が洗濯機がなくても大丈夫な人間かどうかすら、その状況になってみないとわからないのです。だからといって、家の中で一人「自分とは何か?」などと考えすぎることのなきよう……。そんなときは、上手に頭のリセットを。ゲームをしたり、生き物を飼ったり、釣りをしたり、あるいは、まったく別の方法で。
取材・執筆:朝井麻由美
撮影:安井信介
企画・編集:プレスラボ
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